The Atomic Cafe LIVE&TALK
「気候危機と原子力」「気候危機と環境問題」「社会とテクノロジー」
© Photo by Mari Onoda

■2023年7月28日(金):トークテーマ「気候危機と原子力」
TALK:大島堅一(原子力市民委員会座長)安部敏樹(一般社団法人リディラバ 代表)
LIVE:あっこゴリラ(気候変動×音楽ライブイベント「Climate Live Japan」と共同企画ライブ)
MC:津田大介

28日は、原発運転「60年超」可能にしたGX電源法が成立したのを受け、原子力市民委員会座長の大島堅一さんと一般社団法人リディラバ 代表の安部敏樹さんのお二人に「気候危機に原子力発電は有効なのか?」ということについて語ってもらった。MCは津田大介さんだ。

気候危機により脱炭素社会への脱却が全世界で求められている。そのなかの選択肢に、日本は原発を入れている。ところが大島さん、安部さんの話によると、ロシアによるウクライナ侵攻後は原発はリスキーということで、世界的には原発から撤退する傾向にあるという。世界のトレンドは何かというと、いうまでもなく再生可能エネルギーだ。2025年には世界の発電のなかに占める再生可能エネルギー割合がトップに立つのは確実。発電の技術を世界に売るという視点からも再生可能エネルギーに投資するのが当たり前だが、日本はそれに逆行するように、岸田政権が原発の活用に舵を切ることを決定した。けっきょく日本は再生可能エネルギーの分野でも大きく世界から遅れをとることになった。

そもそも原発は世界的に見てもオワコンであり、日本でも発電に占める割合は4〜5%という指摘が。にもかかわらず日本政府は原発の運転期間を60年に引き上げ、年間1兆円の予算をつぎ込むという。5%の電気しか作っていない発電方法に国民一人につき25万円を払うという異常事態が起こっている。電気代高騰のなか、原発を再稼働すると電気代が安くなると声高に叫ぶ人たちがいる。たしかに再稼働によって年間で1500円程度の電気代が安くなるという試算もあるが、冷静になって考えてほしい。1500円の電気代を下げるために25万円(四人家族なら100万円)を使っているのが原発政策の実情なのだ(1500円やるから100万円くれ、といわれているようなものだ)。原発政策から脱却しさえすれば、電気代はものすごく安くなるわけだ。

政府はGX推進法という脱炭素社会を目指した法律を施行するではないか、という意見もあるが、それも名ばかりで、本当の目的は脱炭素を名目に原発を60年稼働させるためのもの。事故を起こした国が、そんなことをやるなんて狂気の沙汰としか思えない、と大島さんは嘆く。まったくそのとおりだと思う。原発事故を起こした国にしてはあまりにも無責任な舵取りだ。世界を見渡すと、再エネ100%を目指していないのは今や日本くらいなものだという。今こそ原発政策を見直し、GX推進法の予算20兆円を原発にばらまくのではなく、再エネに投資すべき、と提言。そのためには(この話は毎回出るが)発送電分離も必要という意見が出された。こうやって考えると、日本は一度掲げた原発政策の旗をおろせずに悪循環に突入している。驚いたことに、日本の原発政策はすでに失敗に終わっていることを官僚も政治家もわかっているという。原発をやめたくてしょうがないのに、勇気をもってそれをいいだせないのが日本の政治家や官僚の現状だという。

この歪な政策(泥沼)から日本は抜け出せるのかどうか暗澹たる気持ちになっていたら、(このテキストを書いている)2023年8月24日、東京電力福島第一原発の海洋放出が始まった。モルタルやセメントで固めて地中に保管する、石油コンビナートにあるような大きなタンクに半減期を迎える100年間保管する、といった海洋放出以外でも有効な選択肢があるにもかかわらず、なぜ風評を恐れずに、福島の漁業関係者の皆さんの反対を押し切って、海洋放出をするのか。

NGOビレッジで原子力資料情報室の高野さんにお話を伺ったところ、六ケ所村の再処理施設に要因のひとつがあるという。六ケ所村の再処理施設が動き出すと9700兆ベクレルの汚染水を海に流すことになる。今回の汚染水が860兆ベクレルといわれているので、860兆ベクレルを流せないのになぜ9700兆ベクレルを流すのだ? となる。だから何がなんでも海に流したいのだという。ところが六ヶ所村の再処理施設は、御存知のとおり、完成する見込みはたっていない(情報室のこのサイトを見ると、日本の原発政策の根幹であるクローズド・サイクルがいかに実現が難しいかがわかる:https://cnic.jp/rep/?page_id=15)。完成の見込みのない再処理施設で流されるであろう汚染水を考慮して、フクイチの汚染水を海に流すという、歪な政策が今回の海洋放出へとつながっているという。政府は「科学的に大丈夫」とかいうが、既定路線に科学的根拠を持ち出したところで、まったく説得力がない。どうせ御用学者の戯言だろう、と勘ぐられても致し方ない。

このように、原発政策は一事が万事、歪であり欠陥だらけであり論理が破綻しているのだ。ではこの状況をどう変えていくのか。壇上からは、主権者である国民が(人ではなく)政策に対して投票することで、原発に依存する異常な世界から脱却できるはずだという意見が出された。

この日のライブはあっこゴリラさんが登場。彼女は音楽を通して気候変動を考えるきっかけを作っているClimate Live Japanにも出演している。今回は、まやかしのGXではなく真の意味の脱炭素社会への道筋を市民の手で作っていこうという意味もこめ、Climate Live Japanとの共同企画のライブとなった。次回、Climate Live Japanは2023年10月8日に行われる。

■2023年7月29日(土):トークテーマ「気候危機と環境問題」
TALK:eri(DEPT代表、デザイナー、環境活動家)ジョー横溝(『君ニ問フ』編集長/文筆家)
LIVE:尾崎裕哉
MC:津田大介

29日は古着屋「DEPT」の経営者かつ環境アクティビストのeriさんと『君ニ問フ』編集長であり文筆家のジョー横溝さんを招いて地球の環境に起こっている様々な問題について語ってもらった。eriさんはアル・ゴアの『不都合な真実』を読んだのをきっかけに気候変動の問題へ関心をよせた。2019年に「IPCC1.5℃特別報告」を読み、気候変動の深刻さと向き合うようになった(くわしくはこちらのインタビューを参照:http://mearl.org/circulation12/)。

2021年に出された「IPCC1.5℃特別報告」(https://www.iges.or.jp/jp/publication_documents/pub/policyreport/jp/6693/IGES+IPCC+report_FINAL_20200408.pdf)の第6次評価報告書では「世界の平均気温は産業革命前と比べて2021~40年の間に1.5度以上上昇する可能性がひじょうに高く、排出量を低く抑えても1.5度を超える可能性がある」と書かれている。1.5℃を超えると、人類に深刻なダメージを与え、ヨーロッパでは12万人が亡くなる試算もされているという(気温上昇についてのグラフ:https://www.data.jma.go.jp/cpdinfo/temp/an_wld.html)。1.5℃を超えるともう後戻りはできず、人類が地球で暮らすのが困難になるそうで、eriさんは「ポイント・オブ・ノー・リターン」というワードを使っていた。

1.5℃というとたいしたことなさそうに思えるが、体温に置き換えるとわかりやすいとのこと。平熱が36.5℃として1.5℃上がると38℃になる。38℃の体温ではまともに日常生活を送ることはできない。わざわざ体温に置き換えなくても、連日の酷暑だけでも地球が沸騰していることがわかる。台風が停滞したかと思えば、関東ではダムが干上がっている。ハワイの山火事は大きな被害をもたらした。2024年は今年以上の酷暑が予想され、やがて四季はなくなり夏と冬の二季になるともいわれている。フジロックもつい数年前までは夜は寒くフリースやレインジャケットを着込んでいた。ところが去年あたりからTシャツ1枚で過ごせるようになった。

ここで重要になってくるのが脱炭素を目指した再生可能エネルギーへのシフトだ。eriさん曰く、ヨーロッパでは再生可能エネルギーよる発電は石炭を超え、再エネに対する投資が活況だ。ところが日本では(28日のトークでも問題になったが)GX推進法により原発への投資を加速させている。世界の潮流と完全に逆行した投資は日本経済をも危機的な状況へ追いやるかもしれない、と思った。ジョー横溝さんは、たしかに太陽光発電にもいろいろと欠陥があったが、日々技術革新が行われているという(みんなが再エネに投資しているのだから自ずとそうなる)。

この状況を覆す有効な方法は前日も提言があったが政策に対する投票があげられる。今日にでもできることは何かというと、再生可能エネルギーを使用している電力会社にシフトするということ。電力会社の変更は意外に簡単にできる。eriさんも関わっているパワーシフト・キャンペーンのサイトに行けば、どの電力会社がどれくらいの比率で再エネを使用しているかも可視化できている(パワーシフト・キャンペーン:https://power-shift.org/

ライブは尾崎裕哉さんが登場。昨年、体調不良で出演がかなわなかったので、今年はそのリベンジ。尾崎裕哉さんの父・尾崎豊さんは1984年の第一回目のアトミック・カフェで伝説のパフォーマンスを披露した。40年後、ご子息がアトミック・カフェのステージで歌うというのは私たちスタッフにとっても感慨深い。尾崎裕哉さんはオリジナル曲と尾崎豊さんの曲を披露した。「尾崎豊をどうしてもフジロックに連れてきたかった」というMCの後に「15の夜」「I LOVE YOU」を歌った。お客さんはもちろん、アトミック・カフェにとっても、フジロックにとっても特別な時間となった。

■7月30日(日):トークテーマ「社会とテクノロジー」
TALK:宮台真司(社会学者)ジョー横溝(『君ニ問フ』編集長/文筆家)
LIVE:世武裕子
MC:津田大介

30日は社会学者・宮台真司さんとジョー横溝さんを招き、社会とテクノロジーの問題について語ってもらった。会場は宮台真司さんのトークを聞きたい人で満員に。その期待に応えて、宮台さんは持ち時間をフルに使ってトークを展開。話題は次々にかわり、ほぼ独演会状態に。筆者もなんとかついていこうと急ぎメモをとったが、情報量の多さについていけなくなり、途中でメモをとるのをあきらめた。内容があまりにも濃密だったので、文字起こしをして全文を掲載しようという話が持ち上がっている。よって、以下、当日のトークの断片だけを書き記す。

「見たいものしか見ない社会がまん延している」と日本の現状を憂う宮台さん。オリンピック疑獄問題を取り上げ、日本はどこをきっても同じ図式といいはなつ。その顕著な例がマイナンバーカード。デジタル庁は「やってる感」の旗を降っているものの、実際には宮台さん曰く「落ち目の電気産業」が利権に群がり、下請けから下請けへと仕事をふった結果、悲惨なことになっているとのこと。これはまさにオリンピックの構図そのもの。オリンピック利権にむらがった会社が8割を中抜きし、末端には2割しか払われなかったのと同じ。これでマイナンバーカードがまともに機能するわけはない。おそらく政府にはそれがわかっている。わかっているけどやめられない。その結果が、連日のマイナカードに関するネガティブな報道だ。見たいものしか見ない社会の成れの果てといってもいい。

次に宮台さんが取り上げたのは自動運転技術。ヨーロッパではレベル5に達している。レベル5とは「自動車に積まれたシステムがすべての運転をするようになる」ことをいう。早い話、完全な自動運転だ(EU公道での運用は2030年を予定)。ところが日本の技術はレベル3にようやく達したところだという。自動運転には様々な問題もあるが、技術が他国に追いついていないのは事実だ。さらに電気自動車へのシフトも大きく遅れをとっているという。日本の大手自動車会社のなかには「会長の目が黒いうちにはエンジンを捨てられない」というような思想(忖度)もあるとか。たしかに「電気自動車への急激な転換に二の足を踏んでいるユーザーがハイブリッド車を見直す流れにある」といったニュースも流れたが、それも所詮、一時的な現象にしかすぎない。そんなことをいわれなくても現場は「わかっている」のだろう。だからこそ宮台さんがいうように「わかっているけどやめられない」構造が問題なのだと思う。これはまさに原発政策と同じだ。「電気自動車にしたところで電気を作る時点で二酸化炭素を排出している云々」という意見も同じ。世界では電気自動車と再エネはセットになっている。そのことから目をそむけている意見にすぎない。

「わかっているけどやめられない」「見たいものしか見ない」日本は「10年のスパンで終わり」と指摘する。宮台さんはそうした日本の体質を「ヒラメ感(思考停止で上位者に伺いを立てる者)」と「キョロメ感(思考停止で同調圧力に屈する者)」と表現する。脱却の鍵は、身近でヒラメ・キョロメ感で行動する者がいたら即切りすること。なんだかた乱暴にも思えるが、日本の状況は、悠長なことをいっている場合ではない。ヒラメ感・キョロメ感はあさましい、さもしいと後世に伝えるような教育(学校教育であれ社内教育であれ)も重要なのだろう。信頼できる人間たちの集合体を信じることが重要だという。

普通の自動車に使用する半導体は300のチップ。これがテスラのような自動車になると3万のチップが必要になってくる。ところが今、世界的に半導体が不足している。半導体不足のため交通系ICカードが販売停止になったりしている。宮台さんは、これからの時代は半導体開発能力があるところしか生き残れないという。例えば、世界最大級の半導体メーカーであるTSMC。台湾の企業で、全世界の50%以上のシェアをほこり、企業価値(時価総額)はトヨタの2倍にも及ぶ。昨今、台湾有事の問題が取り沙汰されているが、台湾問題とは実は半導体の問題でもあるという。そういえば「TSMCの子会社が熊本に製造拠点を作った結果、経済効果は4兆円」というニュースを耳にしたことがある。宮台さんは「テクノロジーを敵にまわすようなことはしないことが大切」という。「テクノロジーに偏見を持つな。包丁の使い方を学ぶような方法で学べ」と。今後、そういった発想がサバイバルの鍵となってくる。

他にも宮台さんの話は多岐にわたったが、さすがに追いきれなかった。ネットで検索すれば、宮台さんのインタビューや対談がヒットする。興味がある方は、そちらで深掘りしていただきたい。アトミック・カフェでは、この日のトークを文字起こしできるかどうか探っている最中だ。来年もいろんなトークゲストをお招きする予定なので、ぜひ、現場で聞いていただきたい。

ライブは世武裕子さんがステージに立った。世武裕子さんはチャットモンチー、くるり、plenty、Mr.Childrenなどのライブにコーラスなどで参加しながら、映画音楽も手掛けるシンガーソングライターだ。宮台さんのトークでヒートアップした会場を癒やすように、素敵な歌声で会場を包んでくれた。

今年もアトミック・カフェのステージは3日間とも満員の観客で埋まった。数あるステージのなかから今年もこのステージを選んでいただいたことに感謝しながら、3日間で問題提起された事象を自分の日常に持ち帰り、危機的状況にある社会の軌道修正に役立てれば、と思う。