The Atomic Cafe LIVE&TALK
「戦争と平和・ウクライナ」「戦争と平和・オキナワ」「気候クライシスと原発」「反戦、平和、ウクライナ」
© Photo by Mari Onoda

今年もフジロックのジプシーアヴァロンでアトミックカフェのトーク&ライブが行われた。今年のフジロックはウクライナへのロシア軍事侵攻という事態を受け、ウクライナ人道支援をテーマに、日本で人道支援を続けている団体への支援募金を呼び掛けることになった。そして、これを受けアトミックカフェでは「戦争と平和」「沖縄復帰50年」をテーマに企画した。トークが30分、ライブが40分の計70分のステージだ。今年は初日の29日金曜日が2部構成で行われたので、3日間4ステージとなった。昨年はコロナの影響で出演キャンセルが相次いだが、今年はMCの津田大介さんも復帰、くわえてジョー横溝さんが3日間、トークをサポートしてくれるなど、充実したステージになった。30分とは言え、トークステージの情報量は多く、かいつまんでしか紹介できないが、読者の皆さんには雰囲気だけでも掴んでもらえれば、と思う。来年はジプシーアヴァロンのアトミックカフェに足を運んでもらえれば、と思う。

2022年7月29日(金)
1部「戦争と平和・ウクライナ」
MC:津田大介
トーク:ヒルカラナンデス(ダースレイダー&プチ鹿島)
ライブ:THE BASSONS

初日第1部のトークライブはプチ鹿島 & ダースレーダー の 「ヒルカラナンデス」が政治をネタにトークを展開した。進行役は津田大介さんだ。下村博文氏、自民党安倍派、岸田首相をはじめ、自民党のスキャンダルを次々に取り上げていく。昨年のウーマンラッシュアワー村本さんといい、今年のヒルカラナンデスといい、権力や権威に忖度しない笑いがアトミックカフェのステージを彩った。

岸田首相がエネルギー危機を背景に「9基の原発を再稼働する」と発言したことに対しては再稼働を許可するのは政治ではなく、原子力規制委員会という指摘を。安倍晋三氏の国葬についてはノーベル賞平和賞をとった佐藤栄作氏も「国民葬」だったことをあげ疑問を投げかけた。旧統一教会と自民党の関係には「自民党のアンチジェンダーも旧統一教会の影響があるのでは?」という発言も。旧統一教会の件では井上義行氏についても言及。(旧統一教会系の)神日本第一地区 責任者出発式時のコール&レスポンス、「2枚目は?」「井上義行!」をステージで再現。ヒルカラナンデスと客席が一体となった。

音楽業界4団体が生稲晃子氏を支持したことで、多くのミュージシャンや音楽業界で働く者が反旗を翻したことにも触れた。生稲晃子氏の無知な態度を見ていると「旧統一教会のブレーンはそもそもエリートで無能な政治家が騙されるのも無理はない」と町山智浩氏が話していたのを思い出す。その後、生稲晃子氏と旧統一教会との関わりが明らかになった。

最後に「自分たちのなかで争点を見つけたら面白いはず」「自分のなかでザワッとしたものを気にしてほしい」と話し、「様々なニュースは全部自分ごと」という言葉で締めくくった。ライブはダースレイダーさんのTHE BESSONSがダブナンバーをジプシーアヴァロンに響かせた。

2部「戦争と平和・オキナワ」
MC:津田大介
トーク:ジョー横溝、YOH
ライブ:ORANGE RANGE (ACOUSTIC SET)

第2部のトークテーマは本土復帰50年となった「沖縄」について。MCは引き続き津田大介さん。ゲストにジョー横溝さんとオレンジレンジのYOHさんが登壇。YOHさん、横溝さん、それぞれにとっての沖縄を話すところからトークはスタート。話題は現在の沖縄へ。あるバンドのメンバーが、身内が米兵の被害にあいながらも米兵を相手に音楽をやっているジレンマを抱えているという話やオスプレイの騒音があまりにも酷く、騒音を脳の中でノイズキャンセリングする人もいるという話を紹介。

YOHさんは、「米軍の存在は子供の頃から日常で、育ってきた景色の一部でもあるが、身近で悲しい事件が起きるたびに複雑な気持ちになる。そういうものを全部ひっくるめて受け入れてきた」と語る。米軍と日常的に向き合っている沖縄の人のことを本土の人はあまりにも知らない、という言葉が重くのしかかる。YOHさんも横溝さんも、沖縄に行ったらリゾート施設を巡るだけではなく「平和祈念資料館に行って欲しい」と訴えた。そこには現実があって、その現実と向き合うことで、いろんな考えが生まれるに違いないからだ。

ウクライナ戦争はないと言われていたのに、今はある。当たり前の日常ってないことを誰もが痛感している。毎日のように入ってくる情報も何が正しくて何がブーストされているのかわからない。信用できる情報とそうでない情報の区別がわからない。私たちはそういう日常に置かれている。YOHさんは「考えれば考えるほど間口が狭くなることもあるので、起きていることをしっかり見て、いろんな人とコミュニケーションをとりたい」と語る。横溝さんの「戦争をやるのも人間だが戦争を止めることができるのも人間」という言葉でトークは締めくくられた。ライブはORANGE RANGEがアコースティックライブを披露した。アコースティックセットをフェスでやるのは稀だそうで、貴重なライブとなった。ORANGE RANGEは翌30日にグリーンステージで通常のバンドセットで演奏を披露した。初めて2部構成で行われたアトミックカフェだったが、どちらもたくさんのお客さんが詰めかけてくれた。

2022年7月30日(土)
「気候クライシスと原発」
MC:津田大介
トーク:いとうせいこう、ジョー横溝、斎藤幸平
ライブ:いとうせいこう is the poet with 満島ひかり

アトミックカフェ2日目のトークテーマは「気候クライシスと原発」。パネラーはMCの津田大介さん、いとうせいこうさん、ジョー横溝さん、斎藤幸平さん。斉藤さんは著書『人新生の「資本論」』が45万部を突破するというベストセラーに。ロックフェスとは無縁かと思いきや、バンドをやっていた経験もあって、当時はハードコア・パンクバンドのガーゼを聴いていたそうだ。ハードコアからマルクスへ転身したという冗談も飛び出し、冒頭からなごやかな雰囲気となった。

トークは気候変動の問題からスタートした。気候変動の問題は衆議院議員選挙では各党の重点政策だった。ところがエネルギー危機を受け、参議院選挙ではトーンダウンしてしまった。それを受けて斎藤さんは「再生可能エネルギーへの転換を先延ばししても気候変動は先延ばしにできない」と、安易に原発再稼働や化石燃料に頼ろうとする流れに警鐘を鳴らした。これも原発事故以来、日本政府が再生可能エネルギーに大胆に舵を切れなかったツケだ。

原発については、戦時下でロシアがまず原発をおさえたことを指摘。原発を狙われるとやばい、と感じたドイツは再生可能エネルギーへの転換を前倒したという。不安定なアジアの情勢を考えても、今、原発を再稼働するリスクは大きい。現実と向かい合った場合、ドイツの考え方が賢明なのは明らかだ。

再生可能エネルギーへの転換について、いとうせいこうさんは「小さな成功例が重要だ」と話す。その一歩として「各々が電力会社を変えるというアクションを起こす」ことが重要だという。いとうさん自身もみんな電力と提携して「いとうせいこう発電所」なるものを展開している。「3.5%の人が違うことをやりだすと世の中は変わる」という例をあげながら、まず会場に来た人に再生可能エネルギーを推している電力会社への変更を促していた。ちなみに会場のほとんどの人が今もなお大手電力会社から電気の供給を受けていることがわかった。

斉藤さんは「石油エネルギーでないと今までの成長は望めないが、脱成長を念頭に置き、豊かさを別の形で作っていくことが大事だ」と話す。再生可能エネルギーへの転換を模索しながら、同時に価値観の変容を起こすことが未来にとって重要なのかもしれない。最後に「スッキリした解決方法はないが一歩ずつ解決に向かって歩んでいける」「このモヤモヤを持ち帰って日本版ビロード革命を起こそう」という言葉でトークライブは締めくくられた。

その後、いとうせいこう is the poet with 満島ひかりがライブを行った。ダブとポエトリーリーディングのコラボレーションに満島ひかりの歌がフィーチャーされた充実したステージとなった。会場は超満員。おそらく今年のジプシーアヴァロンで一番集客したのではないだろうか。

2022年7月31日(日)
「反戦、平和、ウクライナ」
MC:津田大介
トーク:高野聡、木村ゆかり、ジョー横溝
ライブ:MIZ

アトミックカフェ3日目のトークテーマは「反戦、平和、ウクライナ」。アトミックカフェのメンバーでありNPO法人幡ヶ谷再生大学復興再生部でも活動している木村ゆかりさん、原子力資料情報室の高野聡さん、3日連続の出演となったジョー横溝さん、そしてMCの津田大介さんが登壇した。

木村さんは5月にウクライナを訪問した。ウクライナに行くことが目的ではなかったのだが、たまたま訪れたバスターミナルでウクライナに入れることを知り、訪問を決めたという。リトアニアからポーランド経由でウクライナに入ったそうだ。木村さんはウクライナでたくさんの写真を撮った。その写真の中から12枚をアトミックカフェのブースに展示した。

破壊された街の様子や地雷が埋められている街の写真などなど。中でも破壊されたロシアの戦車が街中に「展示」してある写真が衝撃だった。木村さんは「たとえ敵とはいえ、戦車に乗っていた人は亡くなっているのだろうし、戦車に乗っている人にだって家族はあったはずだということを考えざるを得なかった」と語る。この戦車の残骸を見て、「敵であっても殺し合うことへの嫌悪感」が湧きあがったそうだ。日本のテレビを見ていてもそういう感情にはならない。木村さんは「間近で見るからこそ感じられることだった」と話す。そういう極限の状況の中だからこそ、生きていることの美しさも知れたという。

木村さんが撮った写真には「破壊」とは対極の写真が2枚あった。破壊された家をボランティアの大工さんたちが修理している様子を写した写真だ。戦争状態が続く中、一方では再生・創造を目指す人たちがいるのだ。

高野さんはロシアによるウクライナ侵攻について、戦争の中で原発が狙われるリスクが現実になったことに驚いたという。今、日本政府はエネルギー不足を理由に原発を再稼働しようとしているが、日本の原発はテロ対策に対してサジを投げているというのが現状だ。高野さんは、1984年の時点で(チェルノブイリの事故の2年前)原発の攻撃を受けたらどうなるかというシミュレーションがすでにあって、外部の電源が消失して急性放射性被ばくの数が18000人という試算まで出ていることを指摘。日本政府はそれを公表せずに原発政策を推進した。その試算が現実になるかもしれない、というところまで来ている。

それでも目前のエネルギー問題をどうするのだ、という意見もある。それに対し横溝さんは「日本で電力が逼迫しているのは全体の0.3%。他の国はそれを蓄電で賄っている」と話す。一方、高野さんは日本政府は理由をつけて原発再稼働に躍起になっているが、それはエネルギー問題云々ではなく、既得権益の構造が変わらないから、という。核燃料サイクルがそれを一番象徴していて「もはや誰も得しないのはわかっていても責任を取りたくないので続けているだけ」と指摘する。

この現状に市民はどう立ち向かって行くべきなのか。高野さんから「抵抗のない生き方はかっこ悪い」「抵抗はあらゆる生き物の本質」「自分はどう生きたいのか」「日々の小さな選択の違いが希望を未来につなげていけるのではないか」という発言が次々に飛び出した。最後に「世界に変えられるのではなく世界を変えていきましょう」という言葉で3日間のトークを締めた。

ライブは尾崎裕哉さんが体調不良のため、急遽出演をキャンセルした。PCR検査の結果、陰性だったが、声が出ないという症状に見舞われたのだ。代わりにピラミッドガーデンで演奏していたMIZが演奏をしてくれることになった。ピラミッドガーデンは限られたエリアの宿泊者しか入場できないエリアだ。MIZのライブを諦めていたファンの人たちがジプシーアヴァロンに駆けつけてくれた。MIZとMIZのファンの皆さんには感謝しかない。

尾崎裕哉さんは来年の出演を約束してくれた。アトミックカフェはお父様の尾崎豊さんが伝説的なライブを見せてくれた場でもある。尾崎裕哉さんのステージは、当時現場にいた我々スタッフも切望している。来年、ジプシーアヴァロンにその歌声が響いている光景を想像しながら、来年のフジロックを楽しみに待ちたい。