ATOMIC CAFE @ FRF '17 © Photo by Mari Onoda

7.28 (FRI)

■7月28日(金)富澤タク、泉田裕彦、Number the.、津田大介
今年もGypsyAvalonでアトミック・カフェ・トークとライブを行った。フジロックでのアトミック・カフェの開催は今年で6年目。今年も総合MCは津田大介氏。28日金曜日のトークゲストはグループ魂の富澤タク。ライブは富澤タク率いるNumber the.。トークには富澤の他に泉田元新潟県知事がステージに上った。もちろん泉田氏が自民党から立候補するなんて誰も思っていなかった。泉田元知事は行政という観点から、富澤タクは福島県出身で原発事故から避難した家族を持つ立場から原発について語った。泉田元知事が原発の持つ軍事的な側面の問題を語ったのに対し、富澤タクが日常生活からとらえた原発の怖さを語ったのが印象的だった。その2つの視点は我々の中にも同時に存在する。感情的な部分と政治的な部分。相反する部分もあれば、そうでない部分もある。我々が市民目線で訴えるべきは、まずは、今もなお避難生活を余儀なくされている人たちがいるという事実、廃炉がなかなか進まない事実だろう。政府自民党は、その事実に向かい合えてないばかりか、再稼働に原発の輸出と原発依存に今も傾倒している。再生可能エネルギーと共に原発の比率をあげようというのだ。果たしてその原因はどこにあるのか。日米の原子力協定なのか、原子力政策の転換が銀行を潰すことになるからか。まず政治的な問題をクリアしないと、それは解決しないのか? アメリカも中国も東京電力福島第一原発事故を受けて、脱原発をすすめているのに? 政治的な視点は大事だが、政治的なことを理由に目の前で苦しんでいる人たちを放置しているのではないか? その2つの視点を同時にもって、物事を動かしていかないといけないのではないのか? 果たしてその政治は今も避難している人たちに希望を与えているのか? 核の問題とか今言っている場合なのか? 富澤タクが指摘している問題点と泉田氏が指摘する問題点を乖離させていることがそもそもの問題なのではないか? では誰が乖離させているのか? それは何のためなのか? 銀行のためか? オリンピックのためか? トークは、初日からもやもやが立ち込めていた。トークの後は富澤タク率いるNumber the.のライブ。今年のフジロックは3日間、天気が悪かった。Number the.のステージの時は、そのピークと言っていいくらいの土砂降りだった。逆にそれがメンバーの心に火をつけた。アグレッシブなビート・ナンバーを次から次に繰り出し、会場を盛り上げた。ちなみに富澤タクは、この日、グループ魂(グリーンステージ)、Number the.(Gypsy Avalon)、ソロ(木道亭)と八面六臂の活躍だった。

7.29 (SAT)

■7月29日(土)後藤正文、エセタイマーズ、津田大介
29日土曜日、フジロックは一日中雨。こんなに天気が悪いフジロックも久しぶりだ。アトミック・カフェのステージ@Gypsy Avalonは16時スタート。今日のトークは津田大介×後藤正文(ゴッチ)。一番印象的だったのは、我々が扱っているのは社会問題であって、政治ではない、という発言。去年のアトミック・カフェに対する「フェスに政治を持ち込むな」発言に対するゴッチからのクレバーな回答だ。ゴミの分別ひとつとってみても、フジロックというのは社会問題と向き合うきかっけの場でもある。ライブはエセタイマーズが登場した。今年のアトミック・カフェのライブはテーマにタイマーズのトリビュートを掲げた。出演アーティストに1曲はタイマーズのカバーをやってもらおうという主旨だ。ここのところ、自由にモノを言える空気が薄くなっている。まるで戦前のように言論と行動を制限するような法律がどんどん通過している。タイマーズはRCサクセションの『カバーズ』発売中止を受けて、言いたいことを言えるバンドを作ろう、と忌野清志郎がゼリーという名前で結成したバンドだ。タイマーズに倣って、出演バンドに「思ったことを自由に歌う意思」を表明してもらおうと思った。ただタイマーズのトリビュートと謳ったときに、タイマーズではなくRCサクセションの『カバーズ』収録曲を演奏する場合を多く見受ける。それでも構わないと思った。カバーする曲がタイマーズでもRCでも忌野清志郎でも、もっと言えば他のバンドでも持ち歌でもかまわない。タイマーズの精神を宿していれば、立派なタイマーズのトリビュートだ。昨日のNumber the.もRCサクセションの『カバーズ』からのナンバー「サマータイム・ブルース」を演奏した。土曜日に登場したエセタイマーズも同様、「エセタイマーズのテーマ」を披露しつつ「サマータイム・ブルース」をカバーした。最後はブルーハーツの「青空」で締めくくった。エセタイマーズはタイマーズ同様、正体不明の覆面バンド。とりとめのないMCの連打。そのなかで日米原子力協定に言及したりもする。彼らは中津川で行われたソーラーブドウカンにも出現。おおいに客をわかせた。

7.30 (SUN)

■7月30日(日) 坂口恭平、佐藤タイジ、松崎ナオ、津田大介
そのソーラーブドウカンのオーガナイザーである佐藤タイジが30日の日曜日のステージに登場した。トークは津田大介氏、佐藤タイジ、坂口恭平氏。坂口恭平氏はモバイルハウス「0円ハウス」をつくって話題になった人物だ。東京電力福島第一原発事故によって熊本に移住し、「0円ハウス」をつくることになった。ただ避難するのではなく、そこから新生活を始めてみようという、坂口恭平氏なりの前向きな提案だ。しかしながら、坂口恭平氏のトークは暴走し、途中で何だかよくわからない展開になった。要所で津田大介氏が手綱を引いて、何とか丸く収まったが、どんなトークだったかあまり記憶に残っていない。坂口氏は「0円ハウス」から数年が経って、本もたくさん出版し、その間、いろんなものを背負ってしまったのかもしれない。もはや「0」でいることは難しくなってしまったのだろう。そんな印象だった。太陽光発電の可能性をひたむきに追求している佐藤タイジの話をもっと聞きたかった。ライブはその佐藤タイジが松崎ナオを迎えて行った。彼らはRCの『カバーズ』から1曲「明日なき世界」を披露した。その後、松崎ナオと佐藤タイジがそれぞれのステージを展開。2人ともとても素晴らしいステージを見せてくれた。松崎ナオのステージを見るのは初めてだったが、帰宅後にサブスクリプションで探して何度も聴いた。佐藤タイジは「太陽光だけでフェスを俺がやれるんだから、国が自然エネルギーにシフトできないはずがない」「それをやろうと国のリーダーが言わないだけ」といった。全くその通りだと思う。その思いをこめて、松崎ナオと佐藤タイジでシアターブルックのナンバー「もう一度世界を変えるのさ」を歌った。タイマーズのソウルが宿っている曲だ。

■フジロックから半年経って、世界は変わり始めた
この3日間は、トークの出演者は自分の視線で社会問題について語っていた。背伸びをせず、自分の知識の範囲で、自分の体験をもとにした話ばかりだった。フジロックが終わって、1か月が経った頃、アメリカの大手電力会社が原発の新規建設を中止し、再生可能エネルギーに投資することを表明した。また12月になって、中国が脱原発を加速させているとNHKが伝えた。すべてが東京電力福島第1原発の事故を受けての方向転換だ。さらに12月になって放映されたNHKスペシャルで世界のマネーが脱炭素を目指す企業へと向かっていることが示された。トランプ政権の意向と実際の投資家の意向は真逆のベクトルで動いている。悪名高きロックフェラーやシティバンクなど、金融大手は炭素0を目指す事業、即ち再生可能エネルギーへの投資へ転換している。日本はというと、経団連と自民党の主導のもと、先進国から大きな遅れをとり、19世紀の技術を推し進める「途上国」というレッテルを貼られているそうだ。原発や火力の輸出ではもはや世界の投資マネーや経済からも取り残されることになるのだ。それでなくても、原発事故を起こした国が原発へ突き進んでいるという歪さはこれからの日本の社会全体に暗い影を落とすことになると思う。(森内淳)